みてごらんきいてごらん。11
2015年1月〜

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豊饒の海(一)
春の雪

三島由紀夫(著)

1969年1月 発行
   小 説

結末にビビった。「え?」って。

物語が終わりに近づくにつれ、まさかな、とは思ってたんだけど
そうなって「うわー」って。

おもしろかった。
そして「おもしろかった」の前に「よかった〜」がつく。
だから「よかった〜おもしろくて」ってことだ。

どういうことかといえば、こういうことだ。

この小説はある知人に薦められて読んだんだ。

オレは今まで三島由紀夫の小説を読んだことがない。
名を残した作家には違いないだろうが、多くの人が
そうであるように、オレの中の三島由紀夫のイメージは
軍服を着てなにやら演説して、で、割腹自殺した人でしょ?
ってことになってる。
作家としてのイメージは、なんか小難しいこと書いてんでしょ、的な。

オレは古い時代の「文学」をあまり読まない。
オレの言う古い時代とは夏目漱石や太宰治や、なんかまぁ、
そういうやつだ。それらが同時代のものなのかは知らないが
なんかそういうやつだ。もちろん三島由紀夫も。

そういう小説は、基本、新刊や再発の文庫で買うことはないから
一昔前の文庫で読むことになるのだが、まず字が小さい。
それで嫌になる。そして旧仮名使いなんかが出てこようものなら
なにこの小難しいやつ、とかなって読む気がしない(笑)

所詮、オレは理系人間だから、文学がどったらこったらは
知ったこっちゃない。

あと、小説の時代背景も、なんとなく大正時代でしょ?
なんとなく大正時代、ってのもよくわからないが(笑)
だからさ、たとえばNHKの朝ドラみたいな。ハイカラさんみたいな。
和服と洋服来た人がごっちゃな時代、みたいな。
戦後まもなく、みたいな。なんの戦争かは知らないけど。

オレはそういう時代のものが嫌いなんだ。
正確には、嫌いも何も、そもそも読むことがない。
時代小説とかいわれる、もっと古い時代のものも
読むことがない。戦国時代のなんかとかも。
坂本竜馬のなんかとかも。

オレは現代ものが好きなんだ。
さらに言えば未来的なSFチックなジャンルも好きかな。

長々と書いてしまったが、そんなこんなで
今まで三島由紀夫の小説は読んだことがなかったんだ。

なんだけど、今回、ある知人になんかおもしれー小説教えてけれ、
っつったら、これを薦めてくれて。

やばい、と思った。

まずいやつがきた、って(笑)

その昔、同じ職場の人におもしろいよ、って「ハリーポッター」を
借りたときの悪夢を思い出した。
ファンタジーもダメなんだよ、オレ。
読んでも読んでもページが進まないあの苦痛(笑)

とにかく読めなかった。
でも、せっかく本を貸してくれたんだから、と思ってがんばって読んだ。
それはバカが読書感想文の宿題で苦労するかのように。
そんな悪夢。

今回もオレの苦手とするジャンルに違いない。
やべーな、って。読めるかな、って。

ただ、お勧めしてくれた人も、おまえにはおもしろさ
わからないかもな、って言ってたし(笑)
おもしろいっていうか、「美しい」んだよ、って難しいこと言うし。

ダメならダメで、アレだな。そう思って読み始めた。

やっぱりダメそうだった。最初は。
でも、なんとかその雰囲気をつかむと、あとは、もう、アレだ。
すごいな、三島由紀夫、そう思った。
表現がいろいろとアレですごいな、って。

バカみたいな感想で申し訳ないが(笑)

おもしろかったよ。よかった〜おもしろく読めて。悪夢よみがえらないで。
まぁ、「美しい」については、それほど感じられなかったが(笑)

っていっても、ストーリーは大したことないんだ。オレが言うのもなんだけど。
貴族の禁じられた恋、的なさ。

そんだけ。

なのに、なぜこんなにドラマチックなんだろう。
もちろん、三島由紀夫の表現力の高さによるものなのだが
やはりそれは物語の「時代」だろう。

この大正時代的な(正確なところは自信ない)日本が舞台だからこそ、の
物語だ。
携帯電話があったら成立しない密室トリックがあるように
その時代だからこその禁じられた恋物語だ。

で、オレはこの小説について、ほとんどなにも知らない状態だったんだけど、
知っていたのは四部作の一作目、ってことだけ。
「豊饒の海」って長編大作の一作目が「春の雪」ってことで。
なんかエライ長い物語のはじまりだな、って。

この後ネタばれあるから、なんにも知らないで読もうと思っている人は
見ない方がいいよ。ま、そんなやついないと思うけど(笑)

「春の雪」は十代の青年が主人公でさ。
オレはてっきりその青年が四部作を通して成長していくのかな、
とか思ってたんだよ。
そしたらさ、一作目のこれの最後にさ、

死んだわ(笑)

「え?」って。

本当に最後の最後、最後の1行で死んだわ。19歳で。
ビビッた。
どうなるんだろう、この後四部作までの物語。
あえて調べないでおこう。読むかわかんないけど(笑)

そういえば、その昔、大学生の頃だったかな、
バンド関係の飲み会で、三島由紀夫が好きなやつと
どっちが優れた文学か言い合ったことあったな。
オレは安部公房押しで。
やれ三島だ、やれ安陪だって。

オレ、三島、読んだことなかったのにね(笑)

三島由紀夫、なかなかおもしろかった。

「春の雪」は映画もあるみたいだから見てみたい。
たぶん、クソ映画なんだろうけど(笑)

                                             2015.12.17


何者

朝井リョウ(著)

2012年11月 発売
   小 説

これ、ある意味タブーに触れたよね、そう思った。

この作者は知らなくても、「桐島、部活やめるってよ」
って小説タイトルは知ってる人も多いんじゃないかな。
その作者が直木賞を獲った作品。
だから、ある程度有名な作品かもしれない。

就活している大学生5人の仲間が主要登場人物。かな。
仲間といっても全員が深い関係ではない。
就活のことで情報交換とかなんとかで協力し合おう、励まし合おう
みたいな感じで集まった仲間。上辺だけの付き合いともいえる。

要所要所にツイッターのつぶやきが出てくるところが
この小説が注目された理由の一つだろう。

今となっては、それほど特殊な手法ではないかもしれないが
それによって、人間の嫌な面を(笑)よりリアルに表現していると思う。

仲間のうちの女子学生が就活のために名刺をつくる。
OB訪問なんかで配るために。
そこには「インターン」「ボランティア」「留学」
などの肩書が並ぶ。

意識高い系だ(笑)
私はこういう者ですよ、と。

仲間の男子学生はそれを見て「かっこいい」って。
「俺にもちょうだい」つって。「すごいな」って。「俺もつくろうかな」って。

そして「オレもがんばらなきゃ」的なことをツイッターでつぶやく。

しかし、それは表面的なつぶやきだ。本心はそこにない。
本心はどこにあるのか。

裏アカウントだ。

その男子学生は裏アカウントを持っていて
そこでは本音をつぶやいている。毒を吐いている。

「学生で名刺とかバッカじゃねーの」とかって。

実は名刺女子は、その裏アカウントを知っていて・・
というのも、相手が何者か気になって探らずにはいられないんだ。
こっそり電話番号から検索して見つけた裏アカウントのつぶやきを
いつも「監視」していたわけだ。

おそろしい。

で、名刺女子が男子学生に直接ぶちまけるシーンがあって。
「知ってるんだよ、いつも私のことバカにしてたんでしょ」って。

おそろしい。

「ほんとうにたいせつなことは、ツイッターにもフェイスブックにもメールにも、
どこにも書かない。」

という一文が小説の中にある。

確かに。

じゃあ、ツイッターやフェイスブックに書いてあることはなんだろう。

ウソか。願望か。虚像か。
人は誰でも「何者」かになろうとする。
凡人であることを認めたくない。

だから「美術館なう」とかつぶやいてしまう。
いや、例えばね。

そして「美術館で○○の絵をみて超感動」とかって。
いや例えば、だよ。

そのつぶやきは絵の素晴らしさを伝えたいのではなく
美術的な絵に感動できる自分スゲー、ってことを
アピールしたいだけ、みたいなさ。

人はみな、誰かに褒められたいんだ。認めてもらいたい。
だから自分をよく見せようとする。何者かになろうとする。
自分は人気者だと。予定でいっぱいだと。毎日楽しいと。
こんな有名人と知り合いだと。
自慢したい。嫉妬されたい。

いや、こんなこと小説の中では語られていないよ。

でも、そんな思いがグルグル渦巻いている。

だけど、実際さ。現実社会ではさ。
みんなそれはわかっているんだけどそこには触れない
やさしさが必要だよね(笑)

そんなことお見通しなんだけど、気づかないフリするっていうさ。
円滑な人間関係を保つために。

でも、そこにあえて触れてしまったおそろしい(笑)小説でした。

おもしろかった。

                                             2015.10.27

DIVE!!

森絵都(著)

2006年5月 発売
   小 説

さすが三大スポ根青春小説、と言われているだけのことはあるな。
おもしろかった。

ちなみに、その三大は

「一瞬の風になれ」(陸上、佐藤多佳子 著)
「バッテリー」(野球、あさのあつこ 著)
「DIVE!!」(水泳の飛込み、森絵都 著)

だ。

つっても、そう言われていたのも、何年も前の話なので
今はどうなんだろ。その後もおもしろいスポ根ものはいろいろ出てきているからね。
「風が強く吹いている」(箱根駅伝、三浦しをん 著)とか。
まぁ、それ以外知らないけど(笑)
でも、いろいろある。はず。
がんばれば思いだせると思うけど、がんばらないわ。
だからわからない。

「一瞬の風になれ」は以前にもここでレコメンしたんだけど
おもしろかった。で、そこにも書いたんだけど「バッテリー」は
途中で読むのをやめた。なんか単行本で何巻もあって長ぇーのさ。
結局はそれほどおもしろくなかったのかもしれない。
ちょっと児童書、的な子供だまし的なところあったからかな。

で、「DIVE!!」。
前から読もう読もうとは思ってて、何度か手に取ったことは
あったんだけど、なかなか読みはじめられなくて。

だって、水泳の飛込み競技とか言われたって、よくわからないし
だから、ホントおもしれーのか?とか思って。
水泳の飛込み競技って、アレだよ。
芸人とかがバツゲームで10mの高さからプールに
飛込むやつあるでしょ?

あそこから、ジャンプしてクルクルクルとか回って
じゃぼんって。いや、最後じゃぼんって水しぶき
上げな方が点数いいみたいなんだけど。

ま、よくわからないまま読んでみた。

おもしろかった。

競技についてもある程度詳しくなる。
いや、詳しくなるっていうか、ちょっとだけわかる。

で、YouTubeとかで見たもんね。オリンピックの飛込み。
すごいわ、アレ。すごい競技だ。

物語は飛込みでオリンピック出場を目指す中学生と高校生
何人かの話だ。
それぞれの視点で、だから主人公が入れ換って視点も変わっていくんだけど
ま、よくある手法っていえばそうなんだけど
誰が主人公になってもおもしろかった。
登場人物がみんな個性的でわかりやすい。

文庫本は上下2巻に分かれているんだけど
それぞれの巻末の解説が上巻はあさのあつこで
下巻は佐藤多佳子で。

だから、上記三大スポ根の著者が総登場しているんだけど
二人とも森絵都を褒めちぎってて、
なんか気持ち悪かった(笑)勝手にやってれ、って。

誰が読んでもおもしろいと思うよ。
間違っても飛込みやってみたいとは思えないけど。

                                             2015.02.02