みてごらんきいてごらん。10
2014年1月〜
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我が家の問題

奥田英朗(著)

2011年7月 発売
   小 説

なんかいい。
夫婦とか家族、その辺がテーマの短編集。
どれも読みやすくておもしろい。

若い人には、まだわからないおもしろさかもしれない。
ちょっと笑えてちょっと泣けて、って感じ。

ま、ここ読んでる人に若い人はいないと思うので(笑)
誰が読んでもおもしろいと思います。

しっかし、奥田英朗はうまいなー。
どこにでもありそうでなさそうな日常を書くのがうまい。
読んでて気持ちが暗くなる、これでもかって
人が不幸になっていく小説もあれば、今回のやつみたいに
ほのぼのした感じのも、どっちもおもしろい。

奥田英朗はオレの中の3大「お」で始まる好きな作家
ってことになってて、その内訳は
「大崎善生」「荻原浩」そして「奥田英朗」なんだけど
この3人は本屋行っても図書館行っても大体連なって、
もしくは近くに置いてあるので、まとめてチェックできて
楽なんだ(笑)

最近気付いたんだけど、オレ、たぶん奥田英朗の本
全部読んでるんじゃないかな。小説もエッセイも。
もしかしたら最新のやつとかは読んでないかも
しれないけど。

そんな作家、他にいたかな。大崎善生とか吉田修一あたりも
かなり読んでると思うけど全部ではないだろうな。

ってことは一番好きな作家は奥田英朗ってことになるのかな。
なるのかな、って、自分のことなんだけど(笑)どうだろ。
今まで一番とは思ったことないけど。
いや、別に一番でも二番でも十番でもいいんだけどさ。

なんかのエッセイで、ここ何年か趣味でランニングしてるって
書いてあったから、マラソン関連の小説書いてくれないかな。
ちょっとそれ関連の話はこの本にもあったんだけどさ。
お母さんが東京マラソン走る話。

友達もいない、これといった趣味もないお母さんが
ジョギングを始めて。初めて長続きした趣味になって。
刺激のない毎日はちょっとしたことで充実していく。
そして、東京マラソンを走る。
お父さんと子供たちが応援に行く。
それだけの話。
なのにおもしろい。ホロリと感動。

あと、仕事に疲れた旦那さんの前にUFOが現れるようになって。
UFOセミナーに参加したり、旦那は少しおかしくなっていく。
そんな状況から旦那を救うべく宇宙人のかっこうをして旦那の前に
現れる奥さん、の話とか。

サクサク読めておもしろいです、どの話も。

                                             2014.10.09


違う自分になれ

岩本能史(著)

2013年11月 発売
   ノンフィクション

岩本能史。

知らないと思う。キミがマラソンをやったことがなければ。
レースを、だから記録を意識したとき、
ここにたどり着く市民ランナーは多いのではないか。
岩本能史に。

マラソンランナーの指導者だ。
いわゆるハウツー本もしくはマニュアル本あるいはメッソド本
も何冊か出している。

指導対象はあくまで「市民ランナー」だ。たぶん。
いや、もちろん「なんちゃら国際マラソン」に出場するような
一流ランナーの指導もしている。
でも、その一流ランナーたちはどうやら、
普通の市民ランナー出身者が多いらしい。
普通の人達を一流まで育てるその手腕にファンは多いのだろう。

だから「いずれ自分も」「もしかしたら自分にも」「まだまだ自己ベスト狙える」
なんて夢を見る(勘違い含む)市民ランナーの信者も少なくない。と思う。
オレもその一人だ。サブ4できる、そう思った。
その勘違いから先日の道マラではエラい目にあった(笑)

しかし、そう思わせる説得力があるんだ。岩本能史。
なんかチャラいっつーか、ゆるい感じの人なんだけど。
ブログの文章とか。40代後半の割には(笑)

って、考えがこの本を読んで変わった。

岩本能史は現役のフットレーサー(と言うらしい)だ。
マラソンを走っている。といってもウルトラマラソンが主だ。
100キロ以上走るマラソンだ。
この本はアメリカのバッドウォーターという全長217キロもの距離を走る
過酷なレースを走った体験記のようなものだ。

初出場の時はリタイヤ。
気温が50度を超えたりするらしい。過酷すぎるだろ(笑)

感動したシーンを一つ挙げようか。
初出場のときレース後半の苦しい最中、ある日本人ランナーと知り合うんだ。
けっこう年配の人だ。このレースを何度か完走している
ウルトラマラソンのベテランだ。(その界隈では有名な人らしい)

途中から一緒に走ってくれるのだが、どうしても付いていけなくなり
休息ポイントになっている、あるクラブハウスでその旨を伝えて
そこで分かれることになる。
ベテランランナーはゴールへ向かって走りだし、岩本さんはリタイアする。

レースをリタイアするとうことはかなり辛いことだ。
プライド、悔しさ、自分否定、いろいろな感情に押しつぶされる。

次の年、岩本さんはまた挑戦する。
そして去年リタイアしたクラブハウスにたどり着く。
そこである手紙を読む。
レース前に、あのベテランランナーに渡された手紙だ。
そこには1行だけ、こう書かれていた。

「岩本がんばれ 岩本がんばれ」

この2回繰り返しが泣かせる。
うまく説明できないが、とにかくがんばれという気持ちが伝わる。
苦しい時に背中をグィっと押してくれる言葉ではないだろうか。
これ以上の「がんばれ」という気持ちを伝える表現をオレは知らない。

オレも先日の北海道マラソンで苦しいとき
この言葉を思い出して何回も頭の中で唱えたものだ。
「岩本がんばれ 岩本がんばれ」

効果はなかった。
他人の名前だからな(笑)

ま、この本は純粋に「読み物」としておもしろいよ。
岩本さんが書くハウツー本の方もとてもわかりやすくていい。
どこか、こう、押しつけがましくないんだ。

「書いてあること全部やる必要ないけどね」的な。
「記録は追うものであって追われるものではないよ」、って。

そして、こんなことを言い切るんだ。
マラソンとは何なのか・・・

幸せな人たちの贅沢な「遊び」です。

だから、あんまりマジになるなよ、って感じで(笑)

そんな人が217キロにもおよぶ過酷なレースを
時には幻覚を見ながらも走りきるドラマ。

おもしろいです。

                                             2014.09.25


ジェノサイド

高野和明(著)

2011年03月 発売
   小 説

いいから、まず読め。

久し振りにキタよこれ。超おもしれー。
どのくらいおもしろいかっつったら、地下鉄でこれ読んでたら
物語に入り込み過ぎて、ハッと気付いたら「あれ、やべ、オレ今どこだ?!」
って思わず乗り過ごすとこだったっていう。
オレ、普段、乗り過ごすとかまずないから。
って、まぁ、みんなもそうそうないと思うけど。

そんくらいおもしれー。

文庫本だと上下2巻でなかなかのボリュームだが、なんの苦もなく読めるだろう。
初めから最後まで、中ダルみすることなく緊張感・スピード感を保つ。

物語は日本・アメリカ・アフリカのコンゴの3箇所で
展開していく。

この本に関するちょっとしたエピソードがある。

この本はブックオフで購入したのだが
前から読みたいな―と思ってた小説だったので「ジェノサイド」って
タイトルみつけた時に「あった、あった」つって
そっこーレジに持っていったわけ。

で、読みはじめて、うーん、なかなか物語が頭に入ってこないな、とか思って。
「はずれ」だったかな、とか思って。

で、そんな時、普通の本屋行く機会があって。

そしたら、まだ、けっこう売れ線の文庫本だから平積みで売ってたんだけど。
アレ?っと思ったね。なんか2種類売ってて。

「え?」って。

見たら「上下2巻」で売ってて。
アレ?って。オレ1冊しか買ってなくて、で、まったく「上下2巻」の
認識なかったんだけど、っつって。

もしかして、と思ってパラパラ読んでみたら、
オレ、下巻から読み始めてた(笑)
もちろんその本屋で上巻買って。

ブックオフで買うとたまにやっちゃうんだよね。
必ずしもセットで売ってないから。

みんなは上巻から読んでね!

なんか知らないけど、おまえ、この本ホントにおもしろいのか?
ってなってる?(笑)

おもしれーよ。

タイトルの「ジェノサイド」とは大量虐殺とか集団殺戮とかの意味を
持つことからもわかるとおり、「戦争」が絡んでくる。

って聞くと、「戦争モノはちょっと」って人もいると思う。
「戦争モノ」とか興味ないなーって人。
心配するな、オレもだ。昔、映画の「プラトーン」が流行った時に
なにおもしれーんだろう、そう思ったクチだ(笑)

だけど大丈夫、「戦争」が主になるわけではない。
それはあくまで人間の「残虐性」を表わす道具であり
物語は別のところにある。

いや、でも、やっぱり重要なファクターだけど、「戦争」。
人間はどうして戦争をするのだろう。
でも、大丈夫だ。うまく説明できないけど大丈夫だ。

あまり詳しいことは書かないでおくが、これは「人間の進化」の物語だ。
人間が今までどう進化してきたのか、そして今後どう進化していくのか。

日本・アメリカ・コンゴで同時に物語が進行していくのだが
遠く離れた場所なのに、その「近さ」がハンパない。リンク感とでもいおうか。
日本にいるのに、すぐそこで戦争が起きているような
錯覚を覚える。緊張する。どうしてそうなるかは、まぁ、読んでくれ。

物語の後半でその全容が見えてきた時、
ある科学者がある人物(全容を理解したかに思えた人物)に忠告する。

「キミはまだ重要な問題に気付いてない」って。

おい、なんだなんだ、ここにきてなんのことだよ、教えれや!って。
その答えを知った時、オレは「おー!!」と声を上げたね(笑)
まったく予想もできなかったその答えに。
大ドンデンとかじゃないんだけど、でも、「おー!!」って。
そう来るか「おー!!」って。

いやー、おもしろかったわ。ホントおすすめ。

一部、戦争のシーンで胸糞悪くなるようなグロい表現があるので
そういうのアレな人はアレかもしれないけど、でも
言うほどアレでもないので、読んでみたらどうかな。
楽しめる本だと思うよ。

ので、ぜひ。

                                             2014.05.28


走ることについて
語るとき
僕の語ること

村上春樹(著)

2007年10月 発売
   エッセイ

先に言っておくと、オレはハルキストではない。

ハルキストとは村上春樹の熱狂的なファンで
著書全てを読んでいるのはもちろん、その生活スタイルも
村上春樹本人のだったり小説内の世界に強く影響されている人たちのことを
言うらしい。それはマラソンだったり音楽だったり映画だったり海外文学だったり。

オレは村上春樹の書く小説は結構好きだから読むけど
村上春樹の人物像については、よく知らない。
なぜならハルキストではないからだ。

ただ、村上春樹が走っていることは知っている。
その辺の市民ランナーよりは一段高いレベルで。
全盛期でフルマラソンを3時間半くらいで走っていたらしい。

本のタイトル通り「走ることについて」書かれた本だ。
小説ではないよ。エッセイみたいやつだ。
本書の中では一種のメモワールである、と言っている。
ま、ちょっとした自伝のようなものとして位置づけているとのことだ。

村上春樹にとって「走ること」は「人生」そのもの、らしい。
走ることからすべてを学べるし、小説を書くために走っている、
みたいなことも書いてある。(ま、詳しくは読んでね)

村上春樹に比べれば、オレなんか超市民ランナーになるわけだが
しかしこの本に書かれてる「走る」ことに対する考え、レース中の思いなんかは
いちいち納得する言葉ばかりだ。「そうそうそうそう!」って。

以前にブログ(みたいなやつ)の方で何度か紹介したことがあるが
「走る理由はほんの少ししかないが走らない理由はトラックいっぱいにある」
的なやつだ。
この本に書いているわけではないが、オレの好きなランナーの教訓的な言葉に

「いいから靴履いてドアを開けろ」というのがある。

よく走りたくなくなる人に向けた言葉だ(笑)

読んでよかった。おもしろかった。
今年もまたがんばって走ろうかな、と思えた。
自分で勝手に走ってるくせに「今年も走らなきゃねーのかなー」
なんて少しブルーになっていたところだったんだ(笑)

あと、村上春樹がある意味「老い」を受け入れるしかない、
みたいな言葉も印象に残ったな。そうだよな、って。
どうしても、マラソン大会に出たときにタイムが伸びなくなってきたときに
そう考えたそうだ。

はじめは、どうしてかな、といろいろ悩んだそうだが
誰しも老いていくんだ、そう考えたら楽になったそうだ。

いろいろ受け入れることは大事だよな、そう思えた本だ。
あきらめる、とは違った意味での「受け入れる」だ。

マラソンやっている人にはもちろん、走っていない人でも
楽しめる本だと思うよ。

ぜひ。

                                             2014.02.16