あいとせいしゅんのひび
2014年11月分

 2014/11/18(火)                             『引き際』
 

スポーツ選手の引退には2種類ある。

一つは、体がボロボロになって自分に限界を感じたとき、
どこのチームからも誰からも必要とされなくなったとき、
そんな誰の目から見ても「終り」が見えた時に引退する選手。
無様な姿クソくらえ、最後まで足掻く、それがオレだ、みたいな。

もう一つは、他人から見ればまだまだやれそうだが、
自分自身でピークを過ぎたと感じて引退する選手。
無様な姿は見せたくないと。

一流の選手は後者が多いと思う。
あるホームランバッターはホームランを打った時に
引退を決めたという。
「完璧に打ったつもりが、いつもの角度でボールが飛んで行かなかった」
とかなんとかで。

どっちがかっこいい、ってのはそう簡単には決められない。
オレ的にはボロボロになっても挑み続ける選手に感動を覚えることが
多い気もするが、でも、一流選手のサラリとした引き際もかっこいい。

店はどうだろう。例えば飲食店。

きゅ、急になんの話だよ、キミはそう思ったに違いない。
引き際の話だ。
このご時世(てきとー)思うように売り上げを出すことができずに
つぶれていく店も多いはずだ。

店の経営が思わしくない時、その改善方法で結果は大きく変わる。
ライバル店より安くするか?
それをやればきっと負のスパイラルに陥ることだろう。
宣伝に力を入れるとか?
SNSなんかを有効に使えば、道は開けるかもしれないね。

メニューを増やす。

一番やってはいけないことだ。
ダメになる。店がダメになること間違いない。

例えば本格コーヒーが飲める喫茶店で焼きうどんを始めてしまう。
本来、香り高いコーヒーの香りを楽しむべき場所に
ソースのニオイが漂う。ダメだろう。台無しだ。

せめてケーキとかなんとかコーヒーにあうもので
改善を図ってもらいたいところだ。

いや、でも、喫茶店で焼きうどん、とかって
あくまでもたとえ話であって、せいぜいランチ始めました、
とかその程度だろ、デカデカと「焼きうどん」とかって
貼り出すわけねーだろ?なんて思うかもしれない。

確かにそうだ。別にオレもそんな店を見たことが
あるわけじゃない。いや、あるかもしれないが
「焼きうどん」だったかどうかは憶えていない。

ところで、以前ここに書いたとあるカフェの話を
憶えているだろうか。
名前は「cafe de MAX」
  ホームページより

地下鉄大通駅構内、っつーかすぐそこがホームってとこに
できたから、当時驚いてここに書いたものだ。
え、こんな場所に?って。

まぁ、アレだ。よくあるスタバ的なオサレカフェだ。
オサレカップでテイクアウトするアレだ。
狭いスペースだから、あくまでテイクアウトだ。
カフェスタンドっていうのかな。

けっこうキレイどこのお姉さんがスタッフのオサレカフェだ。
しっかし、こんな場所でオサレカフェ買う人いるのかねー、
とか思ってたんだ。すぐ潰れると思ったけどまだ続いている。

売れてんのかなーとか思ってたら、去年の夏くらいかな、
デッカイのぼりっていうの?縦長のハタみてーなやつ。
それが出現してさ。そこにはデッカく

「ソフトクリーム」

ってなってて。
それ見た時、アレ?って思ったんだ。
あんまオサレじゃないぞ、って。
やっぱり売上厳しいのかなぁ、とか思ってたんだ。

そしたら、この前、とんでもないメニューが登場していたんだ。
そこはオサレカフェスタンドの「cafe de MAX」だぜ?
オサレお姉さんがスタッフの。

まずは写真を見てくれ。


  Cafe de soba(え?)

どうだ!
オサレカフェスタンドが駅の立食いソバ屋に変身だ。

ダメだろ。ダメになりすぎだろ。
オレをあんまり悲しませるなよ(笑)
いくらなんでアレだろ。ダメすぎだろ。

オレは心配だ。
そこで働くオサレお姉さんが。
たぶん名前はエリカだろう。22歳だ。

エリカの夢は将来自分の店を持つことだ。
小さな店でいい。でも居心地のいいカフェにしたいな、って。
手作りの焼き菓子なんかもコーヒーに付けて。
輸入雑貨なんかも販売したらおもしろいかも!
なんて。

高校卒業後、友人の多くは大学に進学したなか、エリカは思い切って
カフェで働くことに。将来のためにがんばらなくっちゃ、つって。
そうは言ってもフリーターだ。不安がないって言ったらウソになる。
一番の親友のモエも大学のサークルでコンパだなんだで楽しそう。

エリカは夢のためにがんばる。
なになに、コーヒーを入れるお湯の温度は85度から92度がいいのか、
奥が深いなー、なんつって。

モエは大学卒業後、地元の中小企業へ就職。
仕事は楽といえば楽なんだけどお茶くみに毛の生えたような仕事。
やりがいがない。毎日退屈だ。なんのために大学出たんだろ。
それに比べてエリカはがんばってるなー、うらやましいよ。
いつかステキなカフェをオープンさせるんだろうなー。

そういえば、今、エリカは「cafe de MAX」ってお店で働いてるとか
言ってたな。地下鉄の構内にある小さなカフェスタンド。
「小さいけどオシャレなお店だよー」とか言ってたな。
エリカはかわいいから通学中の男子高校生から告白されてたりして。
遊びにいってみよ!

「cafe de MAX」には汚ったない作業着をきたオッサンがいる。
「グヘヘ、お姉ちゃんがソバつくるのかい、いやーオシャレなソバだね、
グヘヘ」
「か、かけソバ一つでよろしいですか?」
「うん、いいよ、お姉ちゃん。かけソバブラックで。なんちゃってグヘヘ」

「か、かけソバ一丁入りました!」

と言いつつ、つくるのもエリカの仕事だ。
ズシャっズシャっと、なんか網目のアレで湯切りをする。
カフェスタンドの中は香ばしいかつおだしのニオイが充満している。

「へい、おまち!」
エリカの威勢のいい声が柱の陰から見守るモエの耳に届く。
モエの視界が涙でぼやける。

ソバをすするオッサンの姿が見えなくなったことを確認して
モエはエリカのもとへ。

「エ・・リカ」
「あ、モエ・・ちゃん」
「いいお店だね」
「あ、うん」
「なんかいろいろやってるんだね」
「うん、コーヒーだけだと売上厳しくて・・」
「そ、そうだよね。でもいいじゃん、エプロン姿かわいいよ」         
「ありがと。あ、モエ、なんか飲んでいきなよ!おごるから
カフェオレでいい?」
「え、いいよ、悪いよ。お金払うよ」
「わかった、じゃ、カフェオレつくるね」
「カフェオレじゃないほうがいいな」
「え、じゃ、なに飲む?」

「そ・・ば」
「え?」
「かけソバちょうだい、お姉ちゃん!」
「へ、へい!かけそば一丁入りました〜!」